質的研究」というと、調査⽅法や分析法を思い浮かべる⽅が多いかもしれませんが、「質的研究」は研究や調査の⽅法(method)などではなく、理論的⽴場を含めた「⽅法論(methodology)」です。
東京で 100 ⼈にこの質問をします。
「はい」と「いいえ」の⼈数を数え、割合を出します。その結果、東京の〇〇%の⼈が「ラーメンが好き」あるいは「嫌い」という結果が出ます。同様に、札幌や博多で聞くこともできるでしょう。また、醤油、塩、味噌など、味の好みについて聞いてもいいでしょう。
これはどのぐらいの⼈が、どのようなラーメンが好きかということを知りたい、という研究です。
この質問の答えは、⼈によってさまざまで、おそらく数を数えたり、割合を出したりすることはできないでしょう。なぜなら、この質問はその⼈にとっての「ラーメンの意味」を聞く質問だからです。
私が⾏なっている質的研究は、単純化すれば、「あなたにとってのラーメンとは︖」のような問いを⽴てる研究です。
さまざまな事象に対し、その意味や経験から⼈間を理解していく研究です。
質的研究を⽊に例えてみました(八木 2020)。インタビューや参与観察という調査⽅法は、その葉になるでしょう。
そして、エスノグラフィーやナラティブ、ケーススタディなど、研究⽅法としての幹や枝があります。それらを⼟台として⽀えているのは、パラダイムという研究者の解釈の枠組みです。
さらに、質的研究の考え⽅は、さまざまな哲学や理論から栄養分をもらっていると考えます。
*資料は第二言語習得研究会パネルディスカッション報告の資料です。『第二言語としての日本語習得研究』(23号)にも掲載しました。
リフレクシビティ(reflexivity)は、質的研究の鍵となる概念だと考えています。リフレクション(reflection)とは異なり、左の図のように、フィールドへ向かう自分がそのまま自分に返ってくるイメージ( " turning back on oneself " Davies 2008)です。質的研究における他者の理解は自己の理解とつながっていると考えています。
*この図は『質的言語教育を考えよう』第3章に掲載したものと同じです。